水面下～黒～She's

　

人はいつか　「黒」から「白」へ辿りつく

彼の元へ戻れる
ただそれだけのために　私は剣をかざす
他の者など知らない
ただ彼のために剣を振るう
それ以外に　理由は要らない

大丈夫

いつまでも　そう言えると思っていた

「黒」に追われ　
「白」を失いかけた少女を助けたのは　少年だった
優しく手を伸ばす少年に　少女は応えられなかった
だけどその手は　冷え切った少女の体を温めた
そして彼女は誓う

――彼のために　私は戦う

そしてまた　少女は戦火へ飛び込む……

「水面下」は揺らぎ　波紋は物語を奏でる
――それは少女が描いた　もう一つの「黒」

私の手が紅く染まってゆく
でもそんなことは気に留めない
これは戦い　気を抜けば　彼の元へは帰れない

彼は笑ってくれた
私も　笑えるようになりたかった
彼と一緒に　あの風の中で語りたかった
でも　今はもう……

迫り来る「青」　駆り立てられる「赤」
もう私は「紫」という言葉では収まらない
私の「碧」は唯一つ

彼と共にいたい

「黒」とはなんと無慈悲なことだろうか
その切なる「碧」さえも叶えてはくれない
少女をそうさせたのは　「黒」か　「橙」か
少女と少年を出会わせたのは何の悪戯か
少女の涙は血に染まる　それでも尚　少女は剣をかざす
唯一つの「碧」
少年と共になれる事を信じて……

彼の元へ戻れる
ただそれだけのために　私は剣をかざす
他の者など知らない
ただ彼のために剣を振るう
それ以外に　理由は要らない

大丈夫

いつまでも　そう言えると思っていた

貴方は誰？

分からなくなってきた　彼は私の名を呼ぶ
でも行かなくちゃ
行かなければこの戦いは終わらない
もし帰ってこられたら伝えたい

ごめんね

そう　言いたかった

少女は　「黒」の前に儚く消えた
そして戦いは終焉を迎える
これは少女の「白」なのか　誰も知る術はない
だけど一つだけ確実なことは――

少女の「白」は　終わっていない

そして水面下は終わりを告げる
男はまた手をかざす
水面下は　何もなかったかのように揺らぐ

それは　男が垣間見た　もう一つの「黒」の世界……